Masuk
──佐伯から電話がかかってきたのは、
彼は俺の胸に顔を埋め、柔らかい舌で乳首を転がす。 ちゅっと吸い上げるたび、身体がびくんと跳ねる。静かな寝室に、ちゅ、ちゅっと湿った音が響く。「…っ、ふ、ぁ…やめろって…」 言葉は出るけど、もうまともじゃない。気持ち悪いわけじゃない。むしろ、ちくりとした快感が神経をじわじわ焼いて、下腹が熱くなる。 なのに、彼の無邪気な仕草に、胸がざわつく。こんなことで感じるなんて、なんか…間違ってる気がする。「ん…きみのこえ、すき…」 彼は片方の乳首を吸いながら、もう片方を指でそっと撫でる。布越しでも、身体が勝手に跳ねる。(こんなことで…) 性的な意味はないんだろう。彼はただ、俺にくっついていたいだけだ。でも、だからこそ、感じてしまう自分に背徳感が募る。「……っ、ぁ……」 喉から漏れた声に、彼が目を見開く。「いたいの?」「……違う。気持ちよくて……びっくりしただけ」 「きもち……いい?」 初めて聞く言葉を、探るように繰り返す彼。俺はなんとか言葉を絞り出す。「なんていうか……頭がふわっとして、身体が勝手に震える……いや、びくっとする。そんな感じ」「ふわって……びくって……?」 彼は目を輝かせ、胸元でこくんと頷く。「ぼくも、きもちいい……!」 恥ずかしそうに笑って、俺の太腿に身体をすり寄せる。薄い寝間着一枚越しに、彼の熱が伝わる。 ……でかいな。 いや、待て。「おい、そこ…!」「ん……リョウ……なんか、あつい……ぼくのここ、ずきずきする……」 彼の腰がくねり、熱い膨らみが俺の股間に擦れる。薄い布越しに、彼の硬さが俺の硬さにぶつかる。熱と熱が重なり、じわっとした痺れが走る。「……なんで、こんな……」 「わかんない……でも、きみのぬくいのだいすき……きもちいい……」 彼は俺にぴったりしがみつき、足を絡めて下腹を擦りつける。柔らかい吐息が近く、微熱を帯びた額が首に触れる。寝間着がずり下がり、ふと、熱い肌が直接触れ合う。俺の硬さと彼の硬さが、布を越えて生で擦れ、ねっとりとした感触が全身を震わせる。(こんなこと……していいのか?) 頭の片隅で警鐘が鳴る。 彼はただ無邪気にくっついてるだけなのに、俺の身体はこんな反応を……。でも、熱い肌の感触、擦れ合う快感に、思考が溶ける。(だめだ……気持ちよすぎて、止められない……)「ねえ、リョウ
長身の美しい造形に、不似合いな幼い言葉だった。 その声を聞いた瞬間、俺の思考が止まる。 「……おまえ、名前は?」 「なまえ?」 首をかしげて、きょとんと見上げてくる。 「──自分をなんて呼ぶか、知らないのか」 「しらない。でも……きみの声、すき」 「……俺は音瀬。音瀬 遼だ」 「おとせ……りょう……」 音の響きを確かめるように呟いたあと、彼は目を細めた。 「いいおと……からだのなか、ぽかぽかする……」 「──おまえは、なんだ」 問いかけに、彼は少し首を傾げ、にこっと笑った。 「……ぼく?」 「おまえ以外に誰がいる」 俺の胸に指を当てて、彼はぽつりと言う。 「おなか、すいた。……ここ、すき」 「質問に答えろ」 「わかんない。でも……きみのそば、いい」 甘えるような声音に、俺の眉間がぴくりと動いた。 「なんで俺に……なつく?」 「なつく?」 また首を傾げ、きょとんとした顔。 「それ、なに?」 ……通じているようで、どこか噛み合わない。 「……いや、なんでそんなに俺のそばがいいのかってことだ」 彼は、俺の腕に巻かれた腕輪に、そっと触れた。 「──きみが、ぼくを、ひろった。だから」 いろいろと訊いてみたが、 結局わかったのは、それだけだった。 俺が拾ったから、彼はここにいる。 それ以上のことは、彼自身もわかっていない。 あるいは──本当に、そうなのかも不明だった。 俺は一度、スマホを手に取った。 通報すべきだ。常識的に考えれば、それが正しい。 だが、彼はそのスマホを見た瞬間、怯えたように目を見開いた。 「やだ……やだ……きみ、いっちゃう……やだ……」 泣き声のような声が、胸の奥に突き刺さった。 そして、画面に表示されたのは──「圏外」の文字。 普段なら問題なく繋がるはずの場所だ。 (たまたま?) (まさか、この男が何か……?) (いや、そんな非科学的な) だが、気づけば俺は、スマホをテーブルに置き、そっとため息をついていた。 「……仕方ない。今夜だけ、様子を見る。明日になっても状況が変わらなければ……そのときは、ちゃんと届ける」 だが彼は、そんな俺のつぶやきすら聞いていないように、ほっとした顔をすると、裸のまま俺に抱きついた。 ……な
──佐伯から電話がかかってきたのは、神根遺跡での発掘調査の最中だった。 石碑の影が長く伸び、風だけが静かに吹いていた。 スマホが震えて、佐伯の文字が表示される。 世間的に言うなら──元恋人で、今は……都合のいい関係。 そう考えた瞬間、自分で胸を冷やすような気がした。 俺はため息をついて応答ボタンを押した。「……なんだ」『今日うち来いよ。嫁いねぇからさ。久々に──』 その軽い声が胸に触れた瞬間、ちく、と痛んだ。(……そういう扱いかよ) 口には出さない。 出す資格なんてない、とずっと思ってきたから。「うるさい。今、神根遺跡の調査中だ」『そんなの後でいいじゃん』「……論文の締め切りがある」『はいはい。教授様は忙しいな。逃げてんだろ、遼』「違う。……もう切る」 通話を切る。 遺跡の静けさが戻った瞬間、胸がうずく。(……いや、違う。 本当は、行きたくない。 でも──少しだけ、会いたい) 佐伯の指。 肌を撫でられたときの体温。 酔って弱くなった夜、腰を支えられて、抱かれた瞬間のあの安心する感覚。(……やめろ。忘れろって) 思い出すたび、身体が先に反応するのが情けなかった。 あれを欲しがってしまう自分が、いちばん嫌いだ。 深く息を吐き、遺跡の石の冷たさに手を置く。(……俺は、もうあそこに戻ってはいけない) そう思うほど、会いたいがじわじわ胸の底から滲んでくる。 風が吹き抜け、石碑の影が揺れた。(……俺は、いつもこうだ)*** 佐伯と出会った頃の俺は、まだ助教授で、不器用なくせに、人にはすぐ情が移る人間だった。 研究で煮詰まれば佐伯の袖をつまみ、酔えば肩にもたれかかった。 好きだった。 けれど── あの頃の俺はもう薄々わかっていた。 誰かの未来に入り込む資格なんて、自分にはないと。 だからあの日、佐伯に「実家についていこうか?」と言われた時、胸が跳ねたのに、俺は笑ってしまった。「佐伯は結婚して家庭作る人だろ?」 喉が裂けるほど痛かったのに、その言葉で全部を終わらせた。 そして、本当に佐伯は結婚して、俺は行かないでと言えないまま残された。*** 風が吹いた。 石碑の基部で影が揺れ、その奥──岩の裂け目の端に、奇妙な金の腕輪が半ば埋もれていた。 地層の年代から考えて